関東ウィメンズくらぶ便り

No.2

 第2回は久慈(桑田)真里さん(学30C)からの寄稿です。


ランニング雑感

                
久慈 真里(旧姓・桑田) 1981年中国学科卒 (学30C)

 記録的な猛暑の中、大阪の長居競技場では、連日、世界陸上の熱戦が繰り広げられ、アスリートの美しい勇姿に見入ってしまいます。今から35年ほど前にはこの暑い時期に自分もあの長居競技場のコースに何度も立っていたことを、遠い昔の風景として懐かしく思い出します。

 当時は走ることが好きだという実感は全くなく、ただただ速く走る、ゴールを追いかけていた、また自分より速い選手の背中を追いかけるだけのあどけない中学生でした。成長期・思春期のバランスを崩し、体調不良によって陸上競技をやめました。私が再び走り出したのはそろそろ更年期を迎えそうな30数年を経てから。

 演劇に明け暮れた学生時代、編集に携わった20代、二人の子どもを出産した30代、その間に経験した海外生活と闘病生活、子育てに忙殺された40代前半。この間一度も走ろうと思ったことはなく、昔、アスリートの卵だったこともすっかり忘れていました。

 今から2年前。47歳になった春、親として、そして老いた親の子どもとして、家庭の中のさまざまな営みの中で、また社会人としての自分の中に日々少しずつたまっていく負のエネルギーに、「これをため続けると絶対病気になる!」という身体の中の叫びみたいなものを聞き、私は友人と共に歩き出しました。つまり散歩です。週に2回ほど、住んでいる浦安市内の探検に出かけました。市内探検は時に3キロ、5キロの時もあり、10キロ近くに及ぶときもありました。
 途中においしいものを見つけたり、路地裏の可憐な花に心を奪われたり、おもしろい建物に思わず立ち止まったり。10年以上この街に住みながら、日々、発見の連続でした。半年くらいこれを続けたら、すっかり、散歩の楽しさとともに負のエネルギーらしきものの存在を忘れました。同時に少し歩く速度を速めていくと、走れそうな気分になってきました。

 ある朝、試しにちょっと走ってみようかな、と試みたときは歩くのに毛が生えた程度の速度で1キロの距離を走るのがやっとでした。その日から少しずつ距離をのばし、朝の30分間だけ歩いたり走ったりを日課にするようにしました。6時ころから、家族の朝の支度を始める6時半までだけの時間限定で続けました。



 陸上競技をやっていたときは短距離の選手だったこともあり、中・長距離の練習が大嫌い、マラソン大会も大嫌い。走りこみの練習のときは、なんやかやの理由をつけてサボりまくっていたことを思い出しました。
 朝のジョギングは、それまでの「走る」という行為とは全く別の行為でした。それは、その日の体調の確認であったり、瞑想の時間であったり、あるいは少しばかりの挑戦の時間であったりと、その日によって、この30分の時間の意味が違います。
 時に苦しくなって立ち止まることはあっても、一歩ずつ足を進めながら自分と向き合うということは同じです。この行為は今の私にとっては生きていくことそのもののように思います。

 24時間テレビで70キロを走りぬいた欽ちゃんが、「もう一度がんばる自分を見たい」といったのはとてもよくわかる気持ちですが、冬場の朝の6時前後はまだ真っ暗です。今の季節ですと、もう午前6時の太陽は若く力強い日差しで体に迫ってきます。この朝のたった30分の小さな挑戦が、毎日違う自分との出会い、日々うつろいでいく四季の、前の日とは違う朝との出会いの時間です。そして、この30分の時間の中で、必ず昨日残した負のエネルギーはすべて出し切ります。

「なぜ走るの?」と聞かれたら、今は「走りたいから」としか答えられません。以前から、理屈や思考より感性で生きていた部分は多々ある私ですが、肉体がより原始的な生き物であるということを強く感じるのが、走っているこの瞬間です。アスリートにはなれなかった私が動物としての欲求から走り出したこのごろです。

 一昨年、「関東ウイメンズくらぶ」立ち上げに、我が外大の諸先輩方とご一緒する機会を多く持ちました。先輩の吉沢佳子さんは還暦を前にマラソンと出会い、今ではホノルルを皮切りに昨年のユングフラウの登山マラソンまで、世界のいろんな大会の完走し、メダルをいくつも手にしておられます。私はまだそういう輝かしい機会を持つところまではいたっておりませんが、今年の2月、氷雨ふりしきる東京をご一緒させていただきました。

 吉沢さんとは東京マラソン以降、時々、東京をマラニックで楽しみましょうと話しています。また走ることを通じて外大の卒業生の中に海外駐在先でマラソンに出会い、市民ランナーとして活躍しておられる方がたくさんいらっしゃることを知りました。私もこの先、この小さな挑戦が、少しずつ大きくなっていけるよう、心身と向き合っていけたらよいと思います。

 世界陸上をテレビ観戦しながら、アスリートたちの美しさに感動し、声援を送りながら、わが身は決して人より体力があるわけでも能力的にすぐれているわけでもありませんが、日々小さな挑戦ができる体であることに感謝の気持ちでいっぱいになります。

 ランニングに興味をお持ちの卒業生の皆さん、ランニング雑感をお寄せ下さい。
 m-kuji@helen.ocn.ne.jp まで。


                                   2007.8.28 残暑



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