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          NO.10



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第10 回の寄稿は、富樫敬子さん(学30EA)です。



バラのある暮らし



 いつまでも心に焼き付いて忘れられない光景というのはきっと誰にでもあると思います。

 私は10年ほど前、初めて育てたオールドローズの「ルイーズ・オジェ」の最初の一輪が咲いた朝のことを今でも忘れることができません。可憐なピンクの花が朝露に濡れて甘い香りを漂わせるのに感動して以来すっかりバラに魅せられ、今では狭いスペースながらオールドローズ、イングリッシュローズなど10数種類のバラを育てています。
 開花時期は5月の中ごろから次々と咲き始め、満開の頃は庭にほのかな香りが漂います。朝、出勤前、庭に出てバラに顔を寄せると、ひんやりした空気の中をバラの香りがよせてきて思わずうっとり。
「さあ今日も頑張ろう」と元気をもらえるバラは私にとっての癒しの友でもあります。
 そんなバラ達をその歴史とともに少しご紹介したいと思います。


歴史の中のバラ

「バラは人の歴史とともに」とよくいわれます。古代ギリシャやローマ時代から詩に謳われ、エジプトの女王クレオパトラはバラを愛好し、ユリウス・シーザーを歓待したときもふんだんにバラの花や香油を使用したと伝えられています。
 ローマ帝国時代暴君として知られる皇帝ネロはクレオパトラと同様にバラを愛した人で、お気に入りの貴族たちを招いて開いた宴会では、庭園の池にバラが浮かべられ、バラ水が噴き出す噴水があり、部屋はもちろんバラで飾られ、皇帝が合図をすると天井からバラが降り注ぎ、料理にももちろんバラの花が使われていたそうです。

 中世ヨーロッパではバラの美しさや芳香が「人々を惑わすもの」として教会によってタブーとされ、修道院で、薬草として栽培されるにとどまりました。十字軍以降中近東のバラがヨーロッパに紹介され、ルネサンスのころには、再び人々の愛好の対象になり、イタリアのボッティチェリの傑作「ビーナスの誕生」でもバラが描かれ、美の象徴とされているほか、ダンテの『新曲』天国篇にも天上に聖人や天使の集う純白の「天上の薔薇」として登場します。

 ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌはバラを愛好し、夫が戦争をしている間も、敵国とバラに関する情報交換や原種の蒐集をし、ヨーロッパのみならず日本や中国など、世界中からバラを取り寄せて、画家ルデューテに「バラ図譜」を描かせました。
 彼女は人工交配にも力を注ぎ、ナポレオン失脚後も彼女の造営したバラ園では原種の蒐集、品種改良が行われ、19世紀半ばにはバラの品種数は3,000を超え、これが観賞植物としての現在のバラの基礎となったといわれます。


バラの種類

 バラはその起源から長い品種改良の歴史を経て現在に至っていますが、大きく分けると、ワイルドローズ、オールドローズ、モダンローズの3つに分けられます。
 野生種はワイルドローズと呼ばれ、日本でも北の浜辺に咲くハマナス、箱根地方のサンショウバラ、ノイバラなどがあります。オールドローズは紀元前からヨーロッパで栽培されていました。

 1867年のハイブリッド誕生以降は次第に忘れられ、ひっそりとヨーロッパの庭で自然に咲いていましたが、最近またブームになってきました。オールドローズの魅力はなんと言っても香りが良いこと。フランドル派の印象画に描かれたようなクラシックな花形や色合いが素敵です。
 独特のダマスク系の香りをもち香水の原料としてヨーロッパの王宮や貴族の暮らしを華やかに彩ってきました。その昔ヨーロッパの貴婦人たちが宮殿でまとったのはこの香りだったのでしょうか。オールドローズは花びらが多く、はらはらと散りやすいので切り花向きではありませんが、庭にあってはこの上なく自然の風情が感じられます。

 一方1867年に「ラ・フランス」という新種のバラが交配で作られ、これがハイブリッド第1号です。大輪で剣弁高芯咲きの美しい完成された形が特徴で、冬を除けば1年中花を咲かせる性質は「四季咲き性」と言われ画期的なもので、これ以後新しく生まれるモダンローズの歴史がはじまりました。
 この新しく生まれたバラが切り花に向くというのでどんどんモダンローズがもてはやされ、オールドローズは次第に忘れ去られていきました。



 今脚光を浴びているイングリッシュ・ローズはイギリスのデビッド・オースティンが、オールドローズの花形と香りにモダンローズの四季咲き性をかけあわせて開発した種類で、モダンローズの系統に入ります。
 その後交配で新しい系統が多く作られ、現在約2万種類の品種があるそうです。最近ではガーデンショップでも様々な種類のバラを見かけるようになりました。
 ちょっと面白いのは、バラの名前に女性の名前が多いことです。育苗家が自分の作出したバラに愛する女性の名前をつけたりしたのでしょうね。


暮らしの中のバラ

「バラは手入れが大変でしょう」、とよく言われます。確かに夏の病害虫予防は欠かせませんし、冬の間も肥料や土作り、剪定・枝の誘引作業なども手間がかかります。
 ただ、ひとたび咲けばそんな苦労も吹き飛びます。春が近づけば蕾はまだかと期待に胸が高まります。満開に咲きそろう姿を想像しながら来年の枝の誘引プランを考えるのは寒い冬の間の楽しみのひとつでもあります。

 私が頭を悩ましたのが日当たりとスペースでしょうか。我が家の庭は北側で半分は午前中しか陽が当たりません。でもバラは意外とタフでそれなりに育ちますし、立体的に高い場所に這わせるようにすると狭い場所でも十分楽しめます。
 ただ高温多湿な日本の夏はバラにとっては過酷な環境です。この先、地球温暖化やヒートアイランド現象が進み、亜熱帯化するとそのうち日本でバラは育たなくなるのでは、とちょっと心配しています。

 先ごろ、サントリーが遺伝子改良して青バラを開発したというニュースがありましたが、写真を見た限りでは青というより青みがかった藤色のようでした。青バラ、は世界のバラ育苗家の夢だそうですが、果たして生きている間に純粋のスカイブルーの青バラを見られる日が来るのでしょうか。それもまた楽しみのひとつです。

 いつか、バラの季節にイギリスの庭めぐりをしてみたい、というのが目下の夢です。



 最後に、我が家の庭のバラたちを紹介します。

アイスバーグ(フロリバンダ)

その名の通り純白の中輪種。 病気知らずで
次々と花を咲かせる優等生。
キャサリン・モーリー(イングリッシュローズ)

うちで一番優雅で存在感のあるバラ。
ゆったりと重たげに咲き、豊かな芳香を
漂わせます。ただ棘は鋭く枝はゴッツイ大木。
グラハム・トーマス(イングリッシュローズ)

  澄んだ黄色でゆるりと咲く大輪の花。花の重みで
やや首を垂れるようなさりげない咲きぶりは
大人の雰囲気。
散る寸前の淡い色のときも魅力です。
グルス アン テプリッツ(オールドローズ、チャイナ系)

明治時代から「日光」の和名で日本でも栽培され、
宮沢賢治が愛し育てていたバラとして
知られています。
うつむき加減にたおやかに咲く風情がいとおしい。
ヘリテージ(イングリッシュローズ)

透けるようなシェルピンクのバラ。可愛いカップ咲きで
さわやかなレモンの香り。
棘少なく枝もしなやか。
メアリー・ローズ(イングリッシュローズ)

濃いローズピンクの大輪。芍薬のように
クシャクシャとした花をたくさん咲かせてくれます。
ルイーズ・オジェ(オールドローズ、ブルボン系)

私が最初に育てたバラ。
冒頭に紹介したものです。
毎年1番先に咲き始め濃厚なダマスクの
香りで酔わせてくれます。
河原なでしこ

バラではありませんが、バラが咲く頃庭で
ひっそり風に吹かれる可憐な姿が
いとおしい。





 




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